本人は家族がどのうように思っているのか、とても気にしています。そして、中には「家族に迷惑をかけている」と自分を責めている人もいます。本人にとって、人との関わりは家族が中心であることがほとんどです。人とのつながりが極端に減っている時、本人の状況を理解し、手助けができるのは、家族になります。
家族は、以前のように学校に通ってほしい、働いてほしい、活動してほしいと思ってしまい、ついつい本人にそれを伝えてしまいがちです。しかし、今どうしたいのか、今どれくらいなら動けるのか、それは本人にしかわからないことがあります(本人にもわからないこともあるでしょう)。
そのような時に家族に責められてしまうと、本人はさらに自分を責め、自信をなくし、「最後の砦」である家庭にまで居心地の悪さを感じるようになってしまいます。一日でも早い解決を望むのはもっともですが、ありのままの本人を受け入れ、本人のペースに少し合わせてみましょう。これは、家族にとってはとても難しいことですが、解決への第一歩となるものです。
本人自身もひきこもっていることで「これから先どうなるのだろう」「親に見捨てられてしまうのでは」と苦しみ、葛藤を抱え、悩んでいることが多いとのことです。
「どうせ他の人には、わかってもらえない」「この苦しみを簡単にわかってほしくない」そんな風に自分自身で苦しさを精一杯抱えていることもあります。
まず、本人の状況の苦しさや辛さをこころにとめることが大切です。そして適度な距離をとって、リラックスし、安心して過ごせる環境を、家庭のなかにつくることから少しずつ始めていくことが大切です。
1)まずは、きき上手になりましょう
◆誠意を持って、うなずいたり、あいづちを打ったりして、真剣に聴いていることを示しましょう。
本人の話を途中で遮ったり、本人の言葉を奪って話し始めたりしないようにしましょう。
◆本人の話に反論しないこと。
家族が本人を理詰めにして反論したり言い負かしてしまうと、どちらもが感情的になって喧嘩してしまったりす るかもしれません。あくまで、本人の話を聴くことに重点を置きましょう。
◆本人が家族を非難する場合も、たとえ本人の誤解であったとしても、まずは訂正しないでおきましょう。
内容の正しさは問題ではありません。怒りや苦しみを家族にぶつけてしまう本人の気持ちを汲み取ろうとする姿 勢で、いったんは耳を傾け、本人が「家族に自分の思いが伝わった」と実感できることが大切です。
◆回復過程で、本人が「何かをしてみようかな…」という気持ちを持ち始めているようなら、本人の思いを聴きな がら、情報提供や今後のことについて、あせらず一緒に考え、話をしてみるのもよいでしょう。
2)本人の気持ちに添った言葉かけをしましょう
本人の自尊心を高めるためにも、本人の気持ちに添った言葉かけをしましょう。
たとえば、「辛かったんだね」などの一言でもよいのです。
辛い気持ちを受け止めてもらえることは、本人の安心感につながります。
次に大切なのは、「相談したいことがあったら言って」「相談したいことがあったら力になるから」といった言葉かけです。
本人が相談したい気持ちになった時は、ゆっくり、しっかりと本人の話を聴きましょう。
3)意識して「ありがとう」と伝えてみましょう
人はついつい、できていないことの方に目が行きがちです。
本人のよい点、何か役に立っている行動・できているちょっとしたことを探し、本人のよいところに気づいたら、それをちゃんと伝え、表現し、教えてあげることが大切です。
こちらの嬉しい気持ちを伝えることで、本人は相手に喜んでもらえたことに満足感を持つことができるでしょう。
自分が周囲の人にとって役に立っていると感じる時、自分は価値がある、つまり自分自身を大切に思える気持ち、「自尊心」を持つことができます。そこから『できることから始めてみよう』というプラスの気持ちや、勇気も出てきます。
家族にも「できないこと」があります
1)受け入れられないこともあります
ひきこもりという状態は、挫折体験や色々な要因でエネルギーが低下しています。エネルギーを蓄えるためにひきこもっている場合も多くあります。
本人の状況を理解し、現在ひきこもっている状態を受け入れることは、本人が安心できる環境をつくるという点で大切です。
しかし、本人のことを《完全に》理解すること、状態やあり方を《すべて》受け入れるということにはやはり限度があります。
過度の金銭要求や家庭内での暴力、迷惑な行為に関しては、受容にも限度があるといってよいでしょう。
受け入れられないものは「受け入れられない」と、きちんと言うことも大切です。
そのようなことで家族が困っている場合は、我慢せずに相談機関に相談して、対応を決めていくことが大切です。
2)金銭の扱いについて
ひきこもっていると、「〜がしたい」「〜がほしい」「〜が食べたい」という欲求がなくなってくることがあります。
そのため、小遣いをほとんど使わなくなり、家族も小遣いを与えなくなります。それは、さらなる欲求や意欲の低下を生むことになり、他の人との交流や、社会参加についても意欲がなくなります。
ひきこもっている(怠けているかのような)本人に小遣いをやることは、「甘え」を助長するのではないか、と不安に思われるかもしれませんが、小遣いは、本人の要求や、外の世界との交流を実現するために必要なもの、と言えます。
本人にとって、小遣いは大切なことです。
逆にインターネットで高額な買い物をしたり、家族に高価な品物を買うように要求したりする場合もあります。
小遣いの額と使い方についてはルールが必要です。
3)家庭内暴力への対応
◇ 第三者を介入させる
家庭のなかだけで起こる暴力であるため、家庭の風通しをよくすることが大切です。家族が人付き合いを活発にして自宅に人が訪ねてくるようにしましょう。
暴力が起こった場合は、暴力の直後に警察に来てもらいましょう。
本人の恨みを買って暴力がエスカレートしないようにするためには、「暴力は断固拒否する」という一貫した態度を保ち、あるレベルまで達した暴力には必ず警察を呼ぶようにしましょう。
◇ 場合によっては、自宅から避難する
避難先は、実家・ホテル・ウィークリーマンション・女性シェルターなどがあります。やみくもに避難しても効果は期待できません。逃げるタイミング、避難中の連絡、戻るタイミングが重要です。
◇ 器物破損について
器物破損という非言語メッセージに込められた本人の言い分を聴こうとこころがけましょう。
「いけないことだ」と言うのではなく「そういうことをされると悲しい」という家族の気持ちを伝えましょう。
家族の心の健康
ひきこもりの問題を心配しているご家族自身も、不安から疲れきってしまうことがあります。また、育て方を後悔する、すべて家族の責任だと感じる、よく眠れない、食欲がない、楽しめない、引け目を感じて人付き合いが減る等のことも起こりやすくなります。
ご自身が疲れていると、つい感情的な対応になり、お子さんとの関係が悪循環になりがちです。ご自分や家族の誰かを責めるのは控えましょう。そして、睡眠をとる、趣味の時間を持つ、友人と会う、旅行に行く等リフレッシュする時間を持ちましょう。
ご家族がご自身の生活を大切にすることの意味
@ご家族に余裕が生まれることで、お子さんとの適度な距離感を保ち、余裕をもって接することができます。
Aご家族に引け目を感じがちなお子さんにとって、ご家族が家を空ける時間が、自由に過ごせる時間になる場 合もあります。
Bご自身の生活を大切にするご家族の姿が、お子さんの社会生活を送る上でのモデルになります。
ひきこもりと関連する疾患について
ひきこもり状態にある方々の背景に、精神疾患や発達障害が関連している場合があることが、様々な調査で報告されています。もちろん、そういった背景がない場合もありますが、関連する疾患の特徴を知っておくことは、効果的な支援のために大切なことです。
1)精神疾患とは
脳の神経伝達物質のアンバランスさや脳機能の障害、脳の器質的な問題によって生じる疾患です。治療は精神科や心療内科で受けることができ、薬物治療などがあります。
@統合失調症
考えや気持ちがまとまらない状態になる病気です。陽性症状として幻覚や妄想が生じたたりします。一方、陰性症状として、意欲の低下、いきいきとした感情が感じられないといった症状が出ることもあります。
A強迫性障害
あり得ないことと思いながらも繰り返し浮かんでくる思考に悩まされます。不安を消すための行動に多く の時間を取られ、生活に支障が出てきます。
Bうつ病
一日中、ゆううつな気分で気持ちが落ち込む、物事に興味関心が持てなくなる、うれしいといった気分が 感じられなくなる、気力や集中力の低下、不眠、疲れやすさ等といった症状が毎日のように現れます。
C社会不安障害
対人場面で悪い評価を受けることや、よく知らない場所で人目をあびる行動をすることに、持続的に強い 不安を感じ、次第にそうした場面を避けるようになります。その結果、社会生活に支障をきたすことがあり ます。
2)発達障害とは
生まれつき様々な能力の発達に偏りがある障害です。
@広汎性発達障害
人の気持ちの理解が苦手、言葉の裏の意味が理解できない、新しいことへや変化への抵抗、こだわりが強 い等があります。この障害は生まれつきのものであり、大人になってから発症することはありません。しか し、知的な遅れや言葉の遅れ等が伴わない場合、幼児期に発見されず、大人になってから診断がなされるこ ともあります。

こちらのページは「大阪市こころの健康センターのパンフレット」と「長野県ひきこもり支援センターのパンフレット」を参考に作成しています。